日本のメンズグルーミング市場は、近年著しい成長を遂げており、ビジネスとして大きな注目を集めています。メンズスキンケア、メンズコスメ、男性化粧品といった分野は、かつては限定的な市場でしたが、現在では2,000億円を超える巨大市場へと成長しました。
市場規模の拡大
矢野経済研究所の調査によると、2022年度の国内メンズビューティー市場(男性用化粧品、メンズエステ、理美容家電など5市場の合計)は、前年度比3.7%増の2,100億8,000万円に達しました。2023年度にはコロナ禍前の水準を超える2,158億円に到達すると予測されており、市場は回復基調から明確な成長期へと移行しています。
特に注目すべきは、中核となる男性化粧品市場の急速な拡大です。株式会社インテージの調査では、男性化粧品市場(基礎化粧品、メイクアップ化粧品、日焼け止め)は2022年に推計376億円に達し、5年前の2017年(推計249億円)と比較して約1.5倍に拡大しました。さらに2024年には497億円(前年比114.8%)へと急成長を遂げ、2019年比では1.8倍という驚異的な成長率を記録しています。
メンズスキンケアの主流化
この市場拡大の背景には、複数の社会的要因が存在します。第一に、新型コロナウイルス感染症のパンデミックによるオンライン会議の普及が、男性が自身の容貌を意識する機会を大幅に増加させました。自宅から参加するビデオ会議では、画面上の自分の顔を頻繁に目にすることになり、肌の状態や清潔感への関心が高まったのです。
第二に、SNSの普及により美容情報へのアクセスが飛躍的に向上しました。Instagram、YouTube、TikTokなどのプラットフォームで、美容系インフルエンサーが発信する情報に男性も容易にアクセスできるようになり、スキンケアの重要性や具体的な方法が広く認知されるようになりました。
第三に、「ジェンダーレス」な価値観の浸透が市場拡大を後押ししています。性別による役割分担や外見への期待が変化し、男性が美容に関心を持つことが社会的に受け入れられるようになってきました。「女子力男子」や「美容男子」という言葉が一般化し、若年層を中心に美容を楽しむ男性が増加しています。
市場の多様化
メンズグルーミング市場は、単に規模が拡大しているだけでなく、その内容も多様化しています。かつては化粧水や洗顔料といった基本的なスキンケア製品が中心でしたが、現在では美容液、クレンジング、フェイスパック、BBクリーム、コンシーラーなど、より高度で専門的な製品への需要が急増しています。
特に美容液市場は2019年比で約5倍に成長しており、保湿やアンチエイジングといった、より高度なスキンケアを実践する男性が増えていることを示しています。また、オールインワンジェルのような手軽さを重視した製品も根強い人気を維持しており、市場は「高機能化」と「簡便化」という二つの方向性を同時に追求しています。
年齢層の拡大
当初は20代から30代の若年層が中心だったメンズグルーミング市場ですが、現在では40代、50代以上の中高年層にも着実に浸透しています。富士経済の調査によると、2024年のメンズ整肌料国内市場は前年度比6.4%増の314億円に達する見込みであり、この成長の原動力の一つが中高年層におけるスキンケア意識の高まりです。
中高年層の男性は、ビジネスシーンにおける清潔感の重要性を強く認識しており、また年齢とともに増える肌の悩み(乾燥、シワ、シミなど)への対策として、スキンケア製品を積極的に取り入れるようになっています。
環境汚染対策への関心
都市部を中心に、大気汚染やPM2.5、ブルーライトといった環境ストレスから肌を守る「アンチポリューションスキンケア」という新しい概念が注目を集めています。
流通チャネルの変化
メンズグルーミング製品の流通チャネルも大きく変化しています。従来はドラッグストアや量販店が主要な販売チャネルでしたが、現在ではECチャネルの急速な拡大が市場の成長を加速させています。特に、D2C(Direct to Consumer)ブランドの台頭が市場に新たなダイナミズムをもたらしています。
今後の展望
矢野経済研究所は、2027年度のメンズビューティー市場を2,279億5,000万円と予測しており、緩やかながらも着実な拡大を見込んでいます。日本のメンズグルーミング市場は、単なる一時的なブームではなく、社会の価値観の変化とテクノロジーの進化に支えられた、持続的な成長が期待される市場です。