市場予測と今後のビジネス機会
「女子力男子」「美容男子」といった言葉が示すように、日本では性別にとらわれず美容を楽しむ男性が増加しています。このトレンドは、メンズグルーミング市場、特にメンズコスメ分野の成長を大きく後押ししています。このページでは、ジェンダーレス美容の潮流とその市場への影響について分析します。
ジェンダーレス美容とは
ジェンダーレス美容とは、性別による区別をせず、すべての人が自由に美容を楽しむという考え方です。従来、化粧品は主に女性向けとされ、男性が使用することは一部のアーティストや芸能人を除いて一般的ではありませんでした。
しかし、2010年代後半から、特にZ世代(1990年代後半から2010年代前半生まれ)を中心に、性別にとらわれない価値観が広がりました。ファッション、音楽、ライフスタイルなど、様々な分野でジェンダーレスな表現が受け入れられるようになり、美容もその一部となりました。
「女子力男子」の登場
「女子力男子」という言葉は、伝統的に女性的とされてきた行動や関心(料理、掃除、美容、ファッション)を積極的に取り入れる男性を指します。2010年代に流行した「草食系男子」の進化形とも言え、単に消極的なのではなく、積極的に美や清潔感を追求する姿勢が特徴です。
女子力男子のライフスタイル
- スキンケアの習慣化: 朝晩のスキンケアルーティンを実践し、化粧水、乳液、美容液などを日常的に使用。
- メイクアップの利用: BBクリームやコンシーラーで肌の色ムラを整え、アイブロウで眉を整えるなど、ナチュラルメイクを実践。
- ヘアケアへのこだわり: シャンプー、トリートメント、ヘアオイルなどにこだわり、髪の健康と美しさを重視。
- ボディケア: ボディクリーム、ハンドクリーム、爪のケアなど、全身の美容に気を配る。
- 美容情報の積極的収集: SNS、YouTube、美容雑誌などから情報を収集し、新しい製品やトレンドを試す。
メンズメイクの普及
女子力男子トレンドの中で最も注目すべきは、男性によるメイクアップの普及です。かつては舞台や撮影の際にプロが施すものだったメイクが、一般男性の日常的な自己表現の手段となりつつあります。
ベースメイクの浸透
最も普及しているのがベースメイクです。BBクリーム、CCクリーム、ファンデーション、コンシーラーなどの製品が、男性の間でも使用されるようになっています。
BBクリーム市場の成長
BBクリーム(Blemish Balm Cream)は、肌の色ムラ、赤み、クマなどをカバーしつつ、スキンケア効果も持つ多機能製品です。日本の男性用BBクリーム市場は、2019年から2024年の間に約3倍に成長しました。
BBクリームの人気の理由
- 自然な仕上がりで、メイクをしていることが目立たない
- スキンケアとメイクが一つで完了する手軽さ
- ビデオ会議での見栄えを良くする効果
コンシーラーの需要拡大
コンシーラーは、クマ、ニキビ跡、シミなど、気になる部分をピンポイントでカバーする製品です。BBクリームよりもさらにナチュラルに使用でき、特定の悩みに対応できるため、メイク初心者の男性にも人気です。
ポイントメイクの台頭
ベースメイクに加えて、眉、目元、唇などのポイントメイクを楽しむ男性も増えています。
アイブロウ製品
眉の形や濃さを整えるアイブロウペンシル、パウダー、マスカラが人気です。眉は顔の印象を大きく左右するため、眉メイクに力を入れる男性が増えています。韓国のK-POPアイドルの影響で、しっかりとした眉が好まれる傾向があります。
リップケア製品
唇の保湿と色付けを兼ねた色付きリップクリームや、ほのかに色づくリップバームが人気です。派手な口紅ではなく、自然な血色感を与える製品が好まれています。
ジェンダーレスブランドの登場
ジェンダーレス美容のトレンドを受けて、性別を問わず使用できることを明示したブランドが登場しています。
日本発ジェンダーレスブランド
nake(ネイク)
マツキヨココカラ&カンパニーが2024年に立ち上げたジェンダーレスコスメブランド。シンプルでモダンなパッケージデザインが特徴で、「素肌を輝かせる」をコンセプトに、スキンケアとメイクアップ製品を展開。
FORMEN(フォーメン)
「すべての人の美しさを引き出す」をコンセプトに、男女問わず使用できる製品を提供。特にベースメイク製品が人気。
海外ブランドの影響
iisam(イーサム)
マツキヨココカラ&カンパニーが展開する韓国風メンズコスメブランド。K-beautyのトレンドを取り入れた製品で、若年層に人気。
SNSとインフルエンサーの役割
ジェンダーレス美容の普及において、SNSと美容系インフルエンサーの役割は極めて大きいです。
YouTube美容系クリエイター
宮永えいと氏、げんじ氏、みかみ。氏など、男性の美容YouTuberが多数登場し、スキンケアルーティン、メイクアップチュートリアル、製品レビューなどのコンテンツを発信しています。これらのクリエイターは、数十万から数百万のフォロワーを持ち、彼らが紹介する製品は即座に売り切れることも珍しくありません。
Instagramとビジュアル文化
Instagramでは、洗練されたビジュアルで美容情報を発信する男性インフルエンサーが活躍しています。ファッション・美容アイコンは、ジェンダーレスな美の価値観を体現し、若年層に大きな影響を与えています。
小売環境の変化
ジェンダーレス美容のトレンドは、化粧品の小売環境にも変化をもたらしています。従来、男性が化粧品売り場で製品を手に取ることには、心理的なハードルがありました。しかし、ジェンダーレスな価値観の広がりにより、このハードルは低下しています。
ECチャネルの重要性
それでも、店頭での購入に抵抗がある男性は多く、ECチャネルの重要性は極めて高いです。オンラインでは、人目を気にせず製品を選び、購入できるため、特に美容初心者の男性に好まれています。
世代間の意識差
ジェンダーレス美容に対する受容度には、明確な世代差があります。
Z世代(10代後半〜20代前半)
最もジェンダーレスな価値観を持つ世代です。男性がメイクをすることに対する抵抗がほとんどなく、むしろ自己表現の一形態として積極的に受け入れています。
ミレニアル世代(20代後半〜30代)
スキンケアには積極的ですが、メイクアップに関してはZ世代ほど開放的ではありません。ただし、ナチュラルなベースメイク(BBクリームやコンシーラー)は受け入れられつつあります。
X世代以上(40代以上)
スキンケアは健康や清潔感の観点から受け入れていますが、メイクアップに対しては依然として抵抗感がある層が多いです。ただし、ビジネスシーンでの清潔感の重要性から、徐々に意識が変わりつつあります。
今後の展望
ジェンダーレス美容のトレンドは、一時的なブームではなく、社会の価値観の根本的な変化を反映したものです。今後、Z世代が社会の中核を担うようになるにつれて、このトレンドはさらに加速すると予想されます。
メンズメイク市場は、現在はまだ小規模ですが、今後大きく成長する可能性を秘めています。技術の進歩により、より自然で使いやすい製品が登場すれば、メイクを日常的に行う男性はさらに増えるでしょう。
ジェンダーレス美容は、メンズグルーミング市場の次なる成長エンジンとして、ビジネスの観点からも注目すべきトレンドです。